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方針


まずは初診の際にゆっくりお話を聞かせていただきます。話せる範囲で、お悩みのことやお困りの症状を教えてください。

私たちの生活は日々ストレスが多く、こころの病に至る過程には激しい葛藤や大きな喪失を体験することがよくあります。こころの病に至ったつらい出来事や、自分ではどうすることもできなかった理不尽な出来事など、その方の背景にまずは耳を傾けたいと思います。

そのうえで、必要があれば薬を処方します。薬に関しては、向精神薬の適切な処方をモットーにしています。依存性が高い抗不安薬(いわゆる安定剤)をなるべく処方せず、万が一処方させていただくにしても慎重に、短期間の使用を心がけています。また抗精神病薬も単剤で少ない処方を心がけ、もし必要がなくなれば少しずつ減薬を進めます。

一方、すでに向精神薬を長期服用中の方には、ご希望があった場合には、時間をかけて少しずつ整理する方針です。ときには、1錠の錠剤を1/2に、1/4にと割って、脳が減薬に気づかないような微調整をいたします。錠剤を割り切れないときはさらに粉にします。詳しくは、処方薬依存の解説をお読みください。

また初診の方で、軽度の不眠、不安、身体症状であれば、漢方薬のみで対応させていただくこともあります。西洋薬の服用に抵抗がある方もご相談ください

しかしながら、どうしても症状のコントロールのために、少なくない薬剤を必要とする患者さんはいらっしゃいます。ときには、少ない薬での対応や減薬を行うことのほうがデメリットが大きい場合もあります。そのような場合にはそのようにお伝えせざるを得ません。

何回かの通院で薬が合い、心療内科を早くに卒業される方もいらっしゃいます。基本的には「卒業できる心療内科」を目指しています。しかし一方で、多くの場合において、こころの病やその周辺症状を治すことは一筋縄ではいきません。薬も万能ではなく、あくまで補助的であり、例えば環境の改善なくしては何も解決しない場合もあります。心療内科の治療では、「治す」というよりも「病気とつきあっていく」という姿勢になることもよくあります。少しでもそのお手伝いができればと考えております。

★漢方薬は保険診療内です。漢方薬や粉薬が苦手な方に無理に処方することはありません。


疾患の解説


取り扱っている疾患や悩みの解説です。ただしこれらの症状が当てはまるからといって必ずしもその疾患ではないこともあります。これらの疾患であっても、書かれてある症状の一部のみが当てはまることもあります。また複数の疾患が併存していてすぐに診断がつかないこともあります。

うつ病

気分がゆううつ、何もする気がしない、考えがまとまらない、という状態が続き、身体的には体重減少(ときに増加)、不眠、肩こり、頭痛、喉の違和感なども見られがちです。体の検査を受けても大きな異常がなく、悪化するとこれまで楽しめていたことに楽しみを感じられなくなったり、生きていても仕方がないと思えてくることもあります。家庭環境や職場が原因のうつ病もありますが、身体疾患や薬(ステロイドなど)が原因のうつ病もあります。また特に原因がなくても体の中から起こってくるようなうつ病もあります。うつ病は重症化すると、妄想が生じてくることもありますが、必ずしも統合失調症ではありません。

依存性がない処方を心掛け、日常生活のアドバイスや、仕事を休むべき期間などの相談にのらせていただきます。ただし環境に原因がある場合、環境を変えなければ寛解が難しいこともあります。

 

躁うつ病

躁うつ病は双極性障害ともいい、躁状態とうつ状態をいったりきたりする病気です。

躁状態では、気分が高揚し、あまり眠らなくても活発に活動できる、次々にアイデアが浮かぶ、買い物で散財する、攻撃的な口調になる、SNSに普段とは違うことを次々と書き込む、万能感が出てくる、といった症状がみられます。躁状態のときは、ご本人は自覚がないことが多く、周囲が注意して躁状態であることに気づく必要があります。一方、うつ状態では、上記のうつ病の症状がみられます。躁うつ病のうつ病相の方に抗うつ剤を使用すると躁に転じてしまうことがあるため注意が必要です。

 

統合失調症

統合失調症は、人種や文化的背景に関わらずおよそ100人に1人程度が罹患する疾患で、典型的には幻覚や妄想がみられる病気です。幻覚で最も多いのは幻聴で、そこにいない人の声が聴こえてきます。「お前はだめだ」などと聴こえることもあれば、「食事をとるな」などと命令されることもあり、たいていはご本人にとって不快な内容です。妄想とは、現実的にはありもしない事柄を確信してしまい、周りが訂正しても訂正困難な考えのことです。「通行人が自分の悪口を言っている」「自分は天皇陛下の子孫である」「盗聴されている」「食事に毒を入れられている」「隣人が嫌がらせをしにくる」などがあります。これらに伴って、不眠、不安、イライラ、自殺衝動などがみられることもあります。

統合失調症は、慢性化すると、幻覚や妄想は背景化して目立たなくなりますが、感情鈍麻や認知機能低下、意欲低下などがみられ、自宅にひきこもって社会生活を送ることが難しくなることがあります。

現在では、脳内のドパミンが過剰になると幻覚や妄想が出現することがわかっており、よく効く薬がありますので、早めに対処すれば高い治療効果をあげています。ただし、服薬を自己中断すると再発率が高い疾患でもあるため、服用を継続する必要があります。

 

パニック症

満員電車などの閉鎖空間で急に気分が悪くなり、動悸や発汗、吐き気、めまい、息苦しさなどを生じるのが典型的な症状です。内科では「心臓神経症」や「過換気症候群」と呼ばれていることもあります。この発作はときに「死んでしまうのではないか」と思うほどであり、そのために「また発作が起きたらどうしよう」と不安になり、苦手な状況を避けるようになります。あまりのつらさに救急車を呼ぶ方もいますが、身体の検査では異常は指摘されません。パニック症になる方が神経が弱いかというとそうでもなく、漢方薬で体質改善をして治ることもあるという印象です。ご希望の方には複数の漢方薬をミックスして体質改善を試みます。

治療としては、薬による治療と合わせて、少しずつご本人のペースで苦手な環境に慣れていくことです。

  

強迫性障害

鍵をかけたかやガスを止めたか何度も確認せずにはいられない、手を繰り返し洗い続けてしまう、大地震が起こるのではないかや重病にかかってしまったのではないかなどの考えが頭から離れない、数字や一度見たニュースのことを考え続けてしまう、などの症状が悪化すると、それらに時間をとられすぎて日常生活に支障が出ます。そしてそれらが理不尽な行動や考えであることを、自分ではわかっているけれどもやめられません。また、うつ病を併発することもあります。投薬治療、行動療法、生活の見直しなどを行います。

 

社交不安障害(あがり症)

人前で話さないといけない場面などにおいて、適度な緊張は誰しもあるものですが、極度な緊張により、顔が赤面し、動悸、発汗、吐き気、手足のふるえ、口が乾くなどの身体症状が生じる場合は社交不安障害の可能性があります。またそれによって頭が真っ白になり、プレゼンテーションで失敗してしまった場合などは症状が悪化することがあります。投薬治療を受けながら、徐々にご自身のペースでその場に慣れていくことで大きく改善することがあります。緊張するとお腹を壊す方によく効く漢方薬なども試していただくことができます。

 

不眠症

様々な理由によって私たちは夜眠れなくなります。大きな悩みやショックな出来事がある場合は誰しも不眠になりますが、単に加齢によるもの、子どものころから体質的に不眠の方、枕が変わると眠れない方などがいます。また、睡眠薬を長期使用した結果、睡眠薬に慣れてしまって逆に眠れなくなってくることもあります。

不眠にも色々なタイプがあり、入眠できない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目覚めてしまう、眠っているけれど熟眠感がない、睡眠時間のリズムがばらばらになる、夜間に頻尿になる、動悸で眠れない、などがあります。

なるべく依存性のない睡眠薬や漢方薬を使用し、生活のアドバイスなどもさせていただきます。

  

アルコール依存症

アルコール依存症は、ある瞬間からアルコール依存症になるわけではありません。長年の飲酒により、耐性ができて徐々に依存症になりゆくものです。毎日飲みたくなる、飲むとたくさん飲んでしまいがち、記憶がなくなる、酔って暴言を述べたり人柄が変わる、飲酒しないと眠れない、などの症状がみられます。徐々に精神面、身体面に悪影響が出て、仕事や日常生活に支障が出てきます。飲酒を続けた結果、アルコール性の抑うつ状態や認知症になる方もいます。身体的にはアルコール性肝障害や肝硬変にもなります。

またアルコールを飲まない日には、イライラしたり、不眠、発汗、頭痛、体のだるさ、腹部の不調、などの離脱症状が出るため、それをおさえるためにまた飲酒しがちです。

アルコール依存症の方の特徴としては、家族や友人が問題を一生懸命指摘しても、「否認」と言って、ご本人はなかなかアルコール問題を認めない傾向があります。飲酒量を家族に過少報告したり隠したりすることもよく見られます。

アルコール依存症の治療は「断酒」、つまりお酒を完全に断つことしかありません。数年やめても再び飲酒してしまえば元に戻ってしまうため、ご本人も周囲の方も病気について学び、根気強く断酒に取り組む必要があります。

精神療法、投薬治療によるサポート、自助グループなどの集団療法などをご提案します。

 

心気症

様々な身体症状につき、何か重病にかかっているのではないかと過剰な心配をして、様々な科を受診して徹底的な検査を繰り返してしまう場合、心気症と診断されます。心気症は中高年の方に多いですが、本来、人は日々なんらかの不定愁訴や軽度の不調はあるものです。それを心気症の方は非常に敏感に感じ取り、過度な不安にとらわれて日常生活に支障が出てきます。投薬治療と対話を通して改善できることがあります。

 

適応障害

特定のストレスが原因となり、気分が落ち込んだり、イライラしたり、涙が止まらないなどの症状がみられます。ストレスは、会社でのパワハラ、夫婦関係や嫁姑関係、学校での友人関係、育児の問題などが多く、それらのストレスから離れれば、適応障害は6か月以内に改善されるものとされています。しかし現実的には問題となっているストレスから離れられないことも多く、そのような場合には精神療法や投薬でサポートしながら、ストレスや心身の変化に対応する能力を身につけることを目指します。

     

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

震災などの災害、交通事故、子ども時代に受けた虐待、性犯罪による被害、などにより強い精神的ストレスが原因となって、時間がたってからも心身の不調を感じることがあります。突然、その経験を思い出すフラッシュバック、めまい、頭痛、不眠、強度の不安、悪夢などがみられます。幼少期のトラウマ的経験のために、不調が何年、何十年も継続することもあり、うつ病やアルコール依存症、統合失調症として治療されていても、実はPTSDが根底にあることも多くみられます。

  

認知症

人は誰でも加齢とともに物忘れが増え、新しいことを覚えるのも苦手になりますが、それ自体は異常ではありません。芸能人の名前が思い出せない程度なら問題はありません。慣れた界隈で迷子になる、ガスを消し忘れる、通帳などが家の中で見つけられない、約束を全く覚えておらず言われても思い出せない、などが見られる場合、一度ご相談ください。悪化すると、物忘れ以外にも「夫が浮気をしている」などの嫉妬妄想、うつ病のような抑うつ状態、話が通じなくなる、外出を嫌がってひきこもる、徘徊する、などの症状がみられることもあります。

尚、認知症ではなく、睡眠薬や安定剤を長く服用しているために一過性の健忘や行動の異常が生じてあたかも認知症のように見えることもあります。

 

処方薬依存(心療内科の薬について)

西洋薬は実際のところ、治療効果が出るのが早く、圧倒的によく効きます。漢方薬を積極的に使用したい当院でも、抗精神病薬、抗うつ剤、一部の睡眠薬は使用します。特に統合失調症の方は西洋薬でないと効果が期待できません。

ただし、いわゆる安定剤(ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、それに準ずる薬)については、当院では新規処方はいたしません。主に下記の薬です。

・デパス(エチゾラム、デゾラム)  
・マイスリー(ゾルピデム)

・ロヒプノール(サイレース、フルニトラゼパム) 
・リーゼ(クロチアゼパム)

・ハルシオン(トリアゾラム)     
 他にも色々あります

2017年より、これらの薬の危険性について厚労省が通達を出しています。これらの薬は、ごくたまに服用する場合や、短期的に利用する場合はさほど問題はないのですが、毎日飲み続けることで何かが根治するということはなく、また正しい容量で処方されていても常用量依存の問題があり、長期に服用するとやめられないばかりか、イライラしたり、よけいに不安になったり、耐性が生じて作用はほとんどないのに副作用はある、また中止すると離脱症状で体がしんどくなったり不安になるという症状が出てきます。これらの薬に依存が生じると、次の薬を飲む時間が気になって時計を頻繁に見る、元々の性格より依存的、攻撃的、神経質になったと家族が感じている、というようなことがおこりえます。また、めまい、ふらつき、血圧の異常、胃の不快感、更年期症状などで他科の薬をたくさん服用しているけれども、実は上記の薬の副作用であった、ということもあります。これらの薬を減薬したい方はご相談ください。ただし、服用期間にもよりますが、減薬により離脱症状が出現しうるため、決して一度に断薬してはいけません。離脱症状は薬をやめてから1か月ほど経ってから出ることもありますが、言葉で説明できないようなつらさがあり、気合いで乗り切れるようなものではありません。減薬は決して急がず、少しずつ削って他の薬に置き換えながら、マニュアルに従い、かつご本人の調子に合わせて、行きつ戻りつしながら減薬します。最終的に完全にゼロにはならないこともありますが、減薬の結果、以前に比べて非常に楽になったと言っていただけることも多いです。

一方、抗うつ薬自体はいわゆる依存性がありません。ただし中止後症状というものがあり、急に断薬すると、薬によっては様々な不調が出る場合があります。当院では、なるべく中止後症状が目立たないか、ほとんど無い薬を用います。また一昔前の薬で非常にやめにくい抗うつ薬の減薬を希望される方には、1mgずつ削るなど、心身への負担が最小限になるよう努めます。

尚、減薬することのデメリットのほうがむしろ大きい場合や、その薬がその方にとって必要と思われる場合には、正直にそのようにお伝えします。初診時は必ずおくすり手帳をお持ちになってください。